耳管機能不全
- 鼻と耳は、鼻の奥の方で耳管という管でつながっています。耳管は、気圧の変化に対応して、中耳の圧力を調整します。たとえば、飛行機に乗るときや高所に登るときなど、外部の気圧が急激に変化すると、中耳内圧と外気の圧力差が起こって、耳がつまった様な感じがします。唾をゴクッと飲み込んだり、あくびをすると、耳管が瞬間的に開き、すぐにまた閉じます。耳管が開いている間に空気が中耳に流れ込むことで、外気と中耳内の圧力が同じになって、耳がつまった感じが改善します。そのほか、耳管は、中耳からの分泌物を咽頭に排出する経路でもあります。これにより、中耳内の液体が排出され、中耳炎などの疾患を予防したり改善したりします。
- 耳管は通常閉じていますが、必要な時に開くようにできています。耳管が何らの原因でうまく機能しない場合を耳管機能不全といいます。耳管が開きっぱなしになる病気を耳管開放症、うまく開かなく鳴る病気を耳管狭窄症といいます。
耳管開放症
耳管が常に開いた状態になると、内側から自分の声が直接鼓膜に届くようになるので、自分の声が異常に大きく聞こえる、音が響いて聞こえる、常に耳が詰まった感じがするなどの症状がでます。男性は60歳代、女性は30歳代の方が多く、体重減少、脱水、妊娠などのホルモンの変化、耳管そのものの脆弱性などが原因になります。これらの症状は鼻すすりをすると、耳管が閉じて一時的に改善するので無意識に鼻すすりをして症状を和らげてしまう人もいます。また、布団に横になったり、深くおじぎをするように頭を下げたりすると、耳管が閉じるので症状が改善する、というのが特徴の一つです。
耳管開放症の治療は、原因となっている状況を変えることになります。しかし、困難な場合も多いので保存的な治療として、点鼻薬や漢方薬、鼓膜処置などを行うことがあります。
一方、手術的な治療として、鼓膜を切開して鼓膜側の耳管から耳管を狭くするためのシリコン製の耳管ピンを挿入する手術や、咽頭側の耳管から自分の脂肪組織を挿入する手術もあり有効性も高いですが、専門的に耳管開放症の治療を行っている施設に限られています。
耳管狭窄症
耳管が開きにくい、または閉塞された状態を指します。耳管がうまく開閉できないため、耳内の圧力が外部の圧力と調整されず、耳のつまった感じや難聴、滲出性中耳炎などを引き起こすことがあります。耳管狭窄症の原因には、アレルギー性鼻炎、アデノイド増殖症、鼻腔や上咽頭の腫瘍、シェーグレン症候群、放射線治療の既往、耳管の形成異常などがあります。
治療については、軽度の場合は、アレルギー性鼻炎の治療や耳管通気などで対応できることもありますが、改善しない場合は鼓膜チューブ留置が必要になることがあります。
突発性難聴
突発性難聴は、特に原因なく突然に聴力が低下する疾患です。ほとんどの場合は片耳で起こります。重症度は全く聞こえなくなる重度なものから、耳が詰まった感じのみの軽度なものまで様々です。特徴的なのは、ほとんどの方が起こった瞬間を自覚されていることです。たとえば「テレビを見ている時にすーっと聞こえなくなった」、「仕事中に耳がいきなりつまった」などです。就寝中に起こった場合は、「朝起きると聞こえなくなっていた。」と訴えられます。めまいを伴うこともあります。突発性難聴原因は現時点では不明ですが、循環障害、ウイルス感染、免疫異常などさまざまな病態が混在すると考えられています。予後は3人に1人は著名回復、3分の1はある程度の回復、残りの3分の1は聴力の改善がみられないというデータがあります。発症後早めに治療を開始するほうが症状が改善する可能性が高く2週間以上経ってから受診された場合は回復しにくいという報告もあります。
確立された治療はありませんが、最もよく行われるのはステロイドホルモンの投与です。その他、末梢循環改善薬、血管拡張薬を使う場合もあります。高圧酸素療法、ステロイドホルモン剤の鼓室内投与、などの追加治療が検討されることもありますが、これらもエビデンスは確立されていません。
突発性難聴に似た症状をおこす疾患は、メニエール病や、自己免疫性内耳疾患(AIED)、聴神経腫瘍などがあり、初回発作の場合は区別がつかないことが多いため、繰り返すときは検査を追加してよく調べる必要があります。
顔面神経麻痺
顔面神経は、顔の筋肉を制御し、感覚を伝えるための重要な神経であり、顔面の表情や口の動き、目の開閉などを調節します。顔面神経麻痺は、この神経に何らかの原因によって損傷が生じた場合に起こります。人口10万人当たり年間30~50人が発症し,日本では毎年4~5万人が発症します。
顔面神経は7番目の脳神経で脳から側頭骨のトンネルを通って耳の後ろから表面に出てきます。顔面神経麻痺は、脳卒中などで脳内で神経が障害される、中枢性顔面神経麻痺と、脳から出たあとに神経が障害される、末梢性顔面神経麻痺に分けられます。末梢性顔面神経麻痺の多くは、ウイルス感染による炎症とそれに伴う血流障害が原因で、水を飲んだ時に唇が閉まらず、水が溢れてしまったり、まぶたが閉じなくなったりして気づかれることが多いです。顔面神経には味覚を伝える神経(鼓索神経)、涙や唾液の分泌を調節する神経、強大音から耳を守るための反射を起こす神経(アブミ骨筋神経)などが含まれており、味覚の異常、涙や唾液の分泌低下や、音が響くなどの症状を伴うことがあります。
ウイルス感染以外が原因の顔面神経麻痺は中耳炎による炎症性の神経障害、頭部打撲などの外傷性の神経障害や、腫瘍に神経が巻き込まれて障害された場合などがあります。
顔面神経麻痺は発症後なるべく早期に診断、治療されることで、治癒する確率が高まりますので、気づかれたらその日か翌日には受診されてください。治療は、原因に応じて異なりますが、一般的には抗ウイルス薬、ステロイドホルモン、末梢循環薬を組み合わせて治療しながら、リハビリテーションを行うことが多いです。重症の場合は手術が行われることもあります。発症後、早期に治療を開始した場合、約8割の患者様は治癒する疾患ですが、残りの2割の方は、元の動きまで改善しないことがあり、その場合は見た目の不自然さを良くする手術などを検討することになります。