2025年9月26
昨年から、「フルミスト」という、新しいタイプのインフルエンザワクチンが発売されています。当院では、昨年は15歳以上の方を対象に従来の注射タイプのインフルエンザワクチンを接種しておりましたが、今年は、それに加えて2-18歳の方にフルミストによるワクチン接種を行う運びとなりましたので、ご案内します。
- フルミストは「鼻に噴霧する生ワクチン」で、日本では2歳〜18歳が1回接種の対象です。
- 注射ではないので痛みが少なく、鼻の粘膜で働く局所(粘膜)免疫も期待できます。明確な有効性の優位(注射との“どちらが上か”)は現時点で確認されていませんが、海外のデータでは同等の予防効果があると報告されています。
- 生ワクチンは、通常の免疫がある方の場合は発症しないように弱毒化したウイルス株を使用しています。そのため、妊娠中、重い免疫不全や免疫抑制治療中の方などは、接種できません。また、接種後1〜2週間は重度免疫不全者との濃厚接触を避ける必要があります。
※生ワクチン・不活化ワクチンなどのワクチンの種類や仕組みについては、簡単ですがこちらでご説明しています。
2つのワクチンの違い(早見表)
比較ポイント | フルミスト (経鼻・生ワクチン:LAIV) | 不活化インフルエンザワクチン(注射:IIV) |
作用のしくみ | 弱毒化した生ウイルスが鼻粘膜で増え、粘膜IgA+全身免疫を誘導 | 不活化抗原で全身免疫(主にIgG)を誘導 |
接種方法・回数 | 鼻にスプレー1回 | 年齢により1〜2回の皮下注射 |
対象年齢(日本) | 2歳〜18歳 | 生後6か月以上 |
痛み | 針を使わず痛みが少ない | 針使用、痛み・腫れが出やすい |
こんな方に向く | 注射が苦手な小児、1回接種で済ませたい方。 | 妊娠中・免疫不全・重い喘息などの持病のある方も選びやすい |
接種後の注意 | 1〜2週間は重度免疫不全者との密接接触を避ける | 特記なし |
併用薬の注意 | 抗インフルエンザ薬やアスピリン等は 効果・安全性に影響する可能性あり | 特記なし |
フルミストのメリット
- 針を使わない:接種時の痛みや注射部位の腫れがありません。
- 接種は1回:シーズンに1回、両鼻に一回ずつの噴霧で完了します。
フルミストの注意点
- 対象年齢が限定(2歳〜18歳)。2歳未満や成人(19歳以上)は対象外です。
- 生ワクチンならではの注意点があります(下記参照)。
- 副反応:鼻水・鼻づまり、咳、のどの痛み、頭痛、発熱などがみられることがあります(鼻症状が多めですが、プラセボよりもやや多い程度です)。また、接種後は1-2週間はインフルエンザ迅速検査で陽性がでるので、発熱時に真のインフルエンザと区別がつきにくいです。
参考:注射の不活化ワクチン(IIV)は、生後6か月以上が対象で、13歳未満は原則2回接種です。当院では注射での接種は15歳以上の方に行っています。
「接種できない方」
- 明らかな発熱がある
- 重篤な急性疾患(風邪など)にかかっている
- フルミストの成分でアナフィラキシーを起こしたことがある
- 免疫機能に明らかな異常がある/免疫抑制治療を受けている
- 妊娠している方
「接種を慎重に検討する必要がある方」
- ゼラチンや鶏卵・鶏由来食品で強いアレルギー歴がある
- 重度の喘息/喘鳴がある
- 心・腎・肝・血液疾患などの基礎疾患がある
- けいれんの既往、免疫不全の診断歴/近親者に先天性免疫不全
お薬との相互作用(重要)
- 抗インフルエンザ薬(オセルタミビル、ザナミビル、ラニナミビル等)
→ ワクチン効果が弱まる可能性があります。国内添付文書は具体的な日数を定めていませんが、個別に判断します。 - アスピリンなどサリチル酸系や一部の解熱鎮痛薬(例:ジクロフェナク、メフェナム酸)
→ ライ症候群等との関連が指摘され、併用注意です。内服中の方は注射の不活化ワクチンを検討します。
有効性について
- 日本の第III相試験(2〜19歳未満)では、発症の相対リスクがtotalで28.8%低下、インフルエンザ株によって13.4~51.3%低下、が示されました(プラセボ対照)。注射との明確な優劣は確認されていません。
どちらを選ぶ?(当院の考え方)
- フルミストがおすすめ:注射が苦手な小児/1回接種で済ませたい方
- 注射(不活化ワクチン)が無難:妊娠中、免疫不全・免疫抑制治療中、重い喘息など、重篤な基礎疾患がある方、アスピリン等の内服中、など(※詳細は診察で個別判断いたしますが、当院では原則、注射による接種は15歳以上の方を対象にしております。)
よくある質問
Q. 鼻水が出ていても接種できますか?
A. 軽い鼻症状のみで全身状態が良ければ接種できる場合があります。診察で判断します。
Q. 他のワクチンと同時にできますか?
A. 可能ですが、当院では他のワクチン接種をしていないため、同時接種はしていません。直近に他のワクチン接種を検討されている方は、スケジュールに影響するため必ずご相談ください。
Q. 家族に重い免疫不全の方がいます。
A. 接種後1〜2週間は濃厚接触を避ける必要があるため、注射ワクチンを優先する選択肢があります。
参考・出典
- 厚生労働省「小児に対するインフルエンザワクチンについて」:対象年齢・用量・回数(IIV/LAIVの一覧)(厚生労働省)
- フルミスト点鼻液 添付文書(抜粋まとめ):禁忌・接種要注意・相互作用・水平伝播・副反応 ほか(KEGG/JAPIC要約)(KEGG)
- 日本小児科学会「経鼻弱毒生インフルエンザワクチンの使用に関する考え方」:有効性の位置づけ/同時接種の考え方(日本小児科学会)
※ご不明な点がありましたらお気軽にご相談ください。